OFFF 2017 Day 1

OFFF(オフ)は毎年春から初夏の時期に開催される有名なデザイン・フェスティバルです。もともとバルセロナ発のイベントですが、今では世界各地でも開催されるようになりました。

開催期間は3日間で、連日プレゼンとQ&Aセッションが朝から晩まで続きます。最終日の夜にはパーティーも開かれます。デザインは主にビジュアル、プロダクトデザイン、ブランディング、パッケージングなどで、世界レベルで有名なデザイナーやとりわけバルセロナを中心としたスペインの有名デザイナーがデザインプロセスやインスピレーション、苦労談、ビジョンなどについて話し、またQ&Aセッションでは様々な質問に答えてくれるというものです。

わたしのOFFFへの初参加は2011年の初夏でした。当時数少ないバルセロナの友達が「デザインのイベントがあるから暇だったらボランティアしてみないか」と声をかけてくれて、無料で有名デザイナーのプレゼンが観たいと思って参加しました。その時は観光ビザでバルセロナに短期滞在していたので、お金はあまりないけど時間だけはたっぷりありました。

2011年のOFFFにはステファン・サグマイスター(Stefan Sagmeister)が参加していて、彼の本にサインをもらって少し話すこともできました。バルセロナに住むつもりだと伝えたところ、彼が「Welcome to Europe」と言ってくれたのですが、このフレーズは半端なく嬉して、今でもハッキリと覚えています。今年のOFFFでは彼の『Happy Film』という映画が観れるということで、それも楽しみでした。

あれから6年、今回は裏口ではなくチケットを購入して、会社を2日間休んで参加しました。この記事を含め、2017年OFFFで学んだことを数回に分けてまとめます。

1. OUTRO STUDIO 

OUTRO STUDIOは2017年のOFFFの会場のデザイン、ビジュアル、パンフレット、ブックレット、バック、ウェブサイトなど何から何までデザインを担当したデザインスタジオです。

まず面白かったのが予算に関する話。

例えばこちらは30ユーロ宇宙映画を製作してくれという依頼。クライアントの無茶振りもいいところ。これ2016年なので直近の話です。メキシコで開催されたOFFFのオープニングビデオです。

まず宇宙飛行士のヘルメットをどう調達するかという話で、e-bayで本物の値段をチェックしたところ既に予算オーバーだったため、ガチャポンが入ってたりするあの丸い透明のケースを調達してヘルメットらしく見えるように工夫したのだとか。

その努力の賜物がこちらのビデオ

依頼者が当初求めていたものと最終的に出来上がってものが異なることになったけど満足してもらえたという例。

こちらはサングラスのお店の依頼。もともと「インフォグラフィック作れますか?」という依頼だったものの、実際に作ったビデオはかなり違います。

こちらが最終的に出来上がったビデオ。

こちらはミュージシャンの依頼で作ったビデオクリップ。

80年代のちょっと危ないレトロなスペインという感じに仕上がっていて(2002年にスペインに来た時、まだスペインはこんなイメージでした、笑)、85歳のおばあさんたちの役者ぶりも素晴らしいです。2人のおばあさんのうちの1人は本当の役者さんで、もう1人は素人なんだとか。

最後にOFFF2017のデザインについて。

方向を決めるために、まずブレーンストーミングをして単語をたくさん書き出すところから始めたそう。

その中で、First time experience (初めての体験)をOFFFで経験をしてもらいたい、ということで刺激の強い組み合わせの赤と青をメインカラーに決定。

ブレーンストーミングで書き出した言葉をそのまま使うことに。

フォントは5つのアルファベットをさらにいじって独特のフォントを制作。ブランドってこういう風に作られるのだな、と興味深く話を聞きました。

後日この記事を書く前に調べていて知ったのですが、バルセロナで一番お気に入りの行きつけの中華料理のレストランのブランディングも彼らの仕事でした。内装も、メニューから何までオシャレだと思っていたら彼らが担当していたとは。

今更ながら、納得。

2. ADAM J. KURTZ

カナダのトロント出身で現在ニューヨークに住むKURTZさんは会場を掴むために、現アメリカの大統領に関する冗談(かなり罵倒)でプレゼンを始め、カナダ人を感じました、笑。ウェブサイトに男性とのキスシーンがあったので多分ゲイちゃん。トークにはハッピーフラワーパワーが炸裂していました。

デザインは個人的に好みではないですが、彼が若手デザイナーを励まそうとしてコメントしていたことにはとても共感しました。

彼が毎年趣味で作っていたダイヤリーは年を重ねるごとに売れていった。自分の経験に基づいて、「とにかくまずやってみろと」というメッセージを送っていました。

「It’s Okay to not know. (自分が何を作っているかわからなくても大丈夫)」

失敗してもいいと言われるけど、一番の問題は自分がやっていることが失敗なのか何なのかわからないことなんだ、でもそれでいい、と。

この言葉には確かに頷けます。

そして、彼が初めて作ったのがポストカードだったということ。わたしもOuchi.Storeで初めて作ったのがポストカードなので、ちょっとした偶然に運命を感じました。

3. KELLI ANDERSON

Andersonさんのプレゼンで刺激的だったのは人間らしさをデザインを通して探ること、紙の可能性の限界に挑戦することです。

Experimental(実験的)で、実用性は正直どこまであるのか?という疑問はありますが、実験をしないとデザインの可能性を探ることはできないので、個人的には全然アリだと思います。

ニセモノの新聞

これはデザイナーを超えてアクティビストの域です。彼女が作った新聞は嘘のニュース満載の新聞。一ページ目には「Iraq war ends (イラク戦争終結)」というタイトルがあります。

当時イラク戦争中だったアメリカでこの新聞を配布した彼女に脱帽。人々は以下のような驚きの表情で、何度も記事を読み直したり、立ち止まったりしていました。

紙の可能性について。

紙から作れるものはたくさんある。彼女は自分の実験を通して、そのことを証明しようとしているようでした。

こちらは紙で作った猫よりも小さな家。猫がかなり大きく見えます。

こちらは紙のレコードプレイヤー。本当に音が聞こえました。

彼女はこういった実験をまとめて、本を出版しました。

こちらはカメラ。スマホを差し込んで撮影。

模様が書けるキット。幼い頃にわたしもこういうのやりました。

これはスピーカー。スマホがまた登場します。

これもスマホのライトを使ったプラネタリウム。スマホの可能性を紙でさらに広げるという感じでしょうか。

彼女の作品は実用的に近づけようとしてるけど、それでも実験要素が強いと感じました。本人もそれに気づいて実用的なものを作ろうとしているのだと思うのですが。でも、わたしは実験が大好きなので、かなり刺激をもらいました。

4. ATIPUS

ATIPUSはバルセロナのデザインスタジオです。知り合いがここで働いているため、一度スタジオを見せてもらったことがあります。その時にも彼らがデザインしたワインボトルのラベルやポスターがかっこいいなと何度もスタジオ内をぐるぐる回りました、笑。

一日のスケジュール、50%は電話とメールの処理、25%は予算、12.5%がミーティング、残りの12.5%がデザイン。

オシャレなワインのラベル。

彼らの仕事スタイル

良い仕事をする→良いクライアントがつく→お金が入る→自由を得られる

以下はバルセロナにある「Poble Espanyol(スペイン村)」のデザインのリノベーションプロジェクト。スペイン村は日本にもあるので想像がつくと思いますが、スペインの様々な地域を一箇所にギュッとまとめたテーマパークです。旅行が手軽にできるようになった現在では廃れて、主に若者が集まる音楽イベントで知られています。

スペイン村の写真を撮るとこんな感じ。

それを新しいデザインにしたのがこちら。よりシンプルになりました。

色をつけて、配置を変えて。

実際の印刷物にはこのように使用。

次はワインボトルのラベルをどうリノベするかというプロジェクト。美味しいワインもラベルがダサいと消費者には買ってもらえません。

元々のデザイン。文字も読みにくいし、これはナンダ?というデザイン、笑。でもワイン作りのプロにデザインまで求めるのも酷だとも思います。

ワインといえばお祝い事(フィエスタ!)、フィエスタといえばこういうイメージ。

ということで出来上がったのが、パーティーを盛り上げてくれるような、パーティーの飾りとしても使えるワインボトル。カラフルで元気が出るデザインです。

次は音に関するプロジェクト。

音波をイメージしたスケッチ。

色をつけて手入れしたもの。

さらにイメージを膨らませて。

最終的に出来上がったもの。

最後に彼らからのメッセージ。

リスクをとり、間違えろ。

心地よさ=間違い

コンフォートゾーンを出ないと成長は無いですよね。

5. BUCK

初日最後のデザイナーBUCK。彼はストーリーテリング(Story Telling)について話しました。

人はたとえ単純な形を見ていたとしても、そこに意味を見出そうとしてしまう、擬人化してしまう傾向がある。

Heider and Simmel (1994) のアニメーションがその例としてプレゼンで使われていました。

見てどう思いましたか?なんだか大きな三角が嫌だとか、そういう風についつい感情移入しそうになりますよね。

良いストーリーはEntertainする(楽しませる)ものであると同時に Provocative(刺激的)であれ、と。

具体的な例として、マジシャンのDavid Blaineのショーのイントロをアニメーションで作って欲しいという依頼を挙げていました。

David Blaineはどれだけ水の中で息を止められるか、などの体を張ったショウで有名ですが、BUCKのプレゼンで使われたのはちょっと気持ち悪いこちらのマジック、笑。ジョニー・デップやベッカム夫妻も登場して面白いです。

わたしも大好きなPaul Austerがスクリプトを描き、Christopher Walkenが声を担当して出来上がったのがこちらのアニメーション。なんとたったの6週間で作ったのだそう。

下はPaul Austerのスクリプト。ポールの小説の大ファンとしてはこの写真だけはどうしても撮りたかった、笑。

というわけで、デザインには良質のストーリーテリングが欠かせないというお話でした。

BECKのプレゼンはエンターテイナー性を感じる素敵なものでした。

最後にもう一本Buckのビデオです。これはイギリスの虐待されている子供用ホットラインの広告。会場でも見ていて涙が出そうでした。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

Time limit is exhausted. Please reload the CAPTCHA.